日本の医療制度において、2024年12月をもって従来の紙の健康保険証が廃止され、マイナンバーカードによる「マイナ保険証」へと一本化される予定です。しかし、その導入過程で多くのトラブルが発生しており、医療現場や市民の間では大きな懸念が広がっています。本記事では、現状のトラブル、紙の保険証廃止の是非、そしてなぜ政府がこの政策を推し進めるのかについて解説します。
マイナ保険証とは?
マイナ保険証は、マイナンバーカードを健康保険証として使用する制度で、これにより従来の紙の保険証を廃止し、医療機関での資格確認や手続きがデジタル化されます。政府は、このデジタル化によって医療の効率化と患者の利便性向上を目指しています。例えば、患者の保険資格がリアルタイムで確認できるようになるため、保険証の忘れや不正利用の防止が期待されています。
しかしながら、医療機関ではこのシステムの運用に多くの問題が発生しており、特に導入初期の段階で大きなトラブルが相次いで報告されています。
医療機関でのトラブル発生
全国保険医団体連合会(保団連)の調査によれば、約70%の医療機関がマイナ保険証に関するトラブルを経験しているとされています。特に多いのが、システムの不具合による「資格情報が無効」となるケースや、カードリーダーのエラー、顔認証の失敗などです。さらに、患者の負担割合が間違って表示されるトラブルも報告されており、後期高齢者が本来1割負担であるはずが3割負担として請求されるなどの深刻な事例も発生しています。
また、顔認証システムの導入によって、認証に失敗するケースが多発しています。特に高齢者や顔認証に慣れていない患者にとっては、このシステムの利用が難しく、暗証番号を忘れてしまうことも多いため、手続きがスムーズに進まない場面が多いと報告されています。
政府が進める保険証廃止の背景
こうしたトラブルにもかかわらず、政府は従来の紙の保険証の廃止を進めています。その理由の一つとして挙げられるのは、デジタル化による医療の効率化とコスト削減です。マイナンバーカードによる一元管理により、医療事務の負担が軽減されるほか、保険証の偽造や不正利用を防止できると期待されています。
また、医療機関に対しては、マイナ保険証の利用を促進するためのインセンティブが提供されています。例えば、利用率が一定以上になると、最大20万円の補助金が支給される仕組みが導入されています。しかし、医療現場からは「少しのお金をもらっても、トラブルが増えるだけであれば導入を進めたくない」という声が多く上がっています。
紙の保険証廃止への懸念
多くの医療関係者が、紙の保険証の廃止は時期尚早であると訴えています。現状では、マイナ保険証のトラブルが多発しており、そのたびに紙の保険証を使用することで問題を解決している状況です。特に、高齢者やデジタル技術に慣れていない層にとっては、マイナ保険証の利用が困難であり、これが直接的な医療へのアクセスに悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
さらに、システムの不具合によって患者が診療を受けられなくなるリスクも高まっています。例えば、資格確認のエラーにより、患者が10割負担を請求されるケースや、資格情報が他人のものと紐付けられてしまうケースが発生しています。こうした問題が紙の保険証廃止後にどのように対処されるのかについては、現時点では明確な解決策が示されていません。
将来への展望
政府は、マイナ保険証の導入に向けてさまざまな改善策を講じていますが、その効果はまだ不透明です。例えば、カードリーダーの精度向上やシステムの改修が進められているものの、現場でのトラブルが完全に解決されるまでには時間がかかると予想されています。また、マイナ保険証の利用率が5%程度にとどまっている現状を考えると、2024年12月の保険証廃止までにシステムが十分に普及し、信頼される状況になるかは疑問です。
まとめ
マイナ保険証の導入は、医療の効率化とデジタル化を進める重要な一歩であることは間違いありません。しかし、現状ではシステムの不具合やトラブルが多発しており、紙の保険証の廃止は時期尚早との声が強まっています。特に、医療現場や患者にとっては、デジタル化の利便性とともに、確実で安全な医療アクセスが確保されることが最優先です。
政府は引き続き、システムの改善とともに、紙の保険証廃止に対する慎重な対応が求められています。
コメント